売店から教室に帰る途中ですれ違った野村先生は、今日もやたらとキザなスーツだった。
「野村先生超かっこいい」
「そ?」
友達のはしゃいだ声に、適当に返事をした。
だって、超かっこいいのは土井先生に決まってる。
残念ながら、私は土井先生派なのだ。おかげで友達と火花を散らさなくてすむけれど、ライバルは多い。
露骨なアピールをするのが1人、隠してるつもりで好意がだだ漏れなのが大体2人くらい各クラスにいる。潜伏しているのはもっと多いはず。
だって私もその一人だから。
土井先生に一目惚れしたのは入学式。
しかも土井先生は副担任で、授業もほぼ毎日ある。更に私の席は教卓の目の前。
その上着クリーニングに出さないんですか? ってか最後に出したのいつですか? って言いたくなるくらい色々観察できる距離だった。もう最高。
これってもう運命じゃん。遠足に運動会に文化祭も一緒にいられるよね。偶然に偶然が重なってふたりきりになって、少女漫画みたいな展開になっちゃったらどうしよう。告白されたらどうしよう! もちろん付き合うけどね!
なんてひとりで舞い上がって、特に何も起きないまま2年生になった。
土井先生の授業はあるけど、もう副担任じゃない。前の方の席なら「前回の授業のノート見せて」って言われたりもするけれど、今のクラスは眼鏡率が高いせいでそれもない。眼鏡かけてんだから見えるだろ! と思うんだけど仕方ない。
とにかく、接点がない。
こんなはずじゃなかったのに。修学旅行も一緒に行けないじゃん。厳密には一緒だけど、副担かそうじゃないかって、でかいと思うの。
何で私は3組じゃないんだよぉおおおおおおおおおおおおお。と荒れた春が懐かしい。
うちのクラスのWシナ先生もいい先生だけど恐いし。それに若い方とお婆さんの方と同姓同名ってややこしいんだけど。どっちか土井先生と交換してくれたら、丁度いいと思うんだ。
そんなことより、所構わずクラスも学年も構わず、土井先生に好きですオーラ出しまくって気軽に声を掛けている子を呪いたい。その他大勢の一人でいなきゃいけないタイプの気持ちを少しは考えろ。
そんなのアンタの勝手じゃん。と言われれば「はい、そうです」と引き下がるしかない。だってチキンだもん。じっとり見つめるしかない。
大々的に校則を破る勇気はなくて、化粧もピアスもなし、制服を着崩すのもそこそこ。せめて土井先生の受け持ちの教科だけでも、と勉強を頑張っても成績は上の中くらい。何故ならば土井先生を狙っている女子が多いから。みんな考えることは同じみたいだ。
そんなわけで、私は完全にその他大勢の中の一人になっている。
しかし下克上の時が巡ってきたのである。
「食堂で食べられたらよかったのにね」
「しょうがないよ」
食堂のおばちゃんの料理は大人気で、食券の購入は朝から長蛇の列どころか戦争だ。
今日は移動教室と体育の授業があって休み時間に食堂には行けず、それでも昼休みが始まってすぐに走れば食券が買えるかもしれないと話していたのに、4限目の授業が5分長引いた。おかげで食券はすでに完売していた。
安藤先生のせいで、今日のお昼は黒古毛屋のパンですよ。憎し。
「部活休みになったけど、帰りにどっか行く?」
「私、追試だよ」
残念そうな演技をしながら、やたら噛みごたえのあるメロンパンを飲み込む。
「追試、今日なんだ?」
「今日なの今日なの」
「名無しさんが追試って珍しい。てかこの前のテスト、簡単だったよね?」
「あー……なんか、勘違いしちゃって」
なんていうのは嘘。わざと間違えた。
そう、実はこれはその他大勢から抜け出すための作戦なのだ。
補習と追試で土井先生との時間をゲットだぜ! と思ったのに今回は補習はないそうで、残念ながら追試だけ。
まぁ、贅沢は言うまい。
早く放課後にならないかなぁ。
放課後、私は胃の辺りをさすりながら教室で突っ立っていた。黒古毛屋のメロンパンやばいな。
どこに座ればいいんだろう。というか、誰も来ない。追試はうちのクラスでやるはずなんだけど。無人の教室にいると、段々不安になってくる。
まさか私、教室を間違えてる? 実はもう追試始まってるんじゃないの?
とりあえず隣のクラスを覗いてみようと、廊下に出た。1組の黒門くんや任暁くんがいたりしませんように。追試を受けるのがばれたら絶対バカにされる。あの人たち私のことなんか知らないと思うけどね。
隣の教室も無人だ。首を傾げながら更に隣の教室へ向かおうとすると、真後ろから声がした。
「どこへ行くんだ?」
この声は土井先生。
「さぼる気か?」
なんて言いながら笑ってる土井先生、かっこよすぎ。
「ほら、教室に入って」
先生に言われて、慌てて教室に戻る。
「しかし、苗字が追試だなんて珍しいな」
感動した! 名前をちゃんと覚えてくれてたなんて。
まぁ、去年は副担任だし、遠足で写真だって撮ったもんね。先生の授業受けるの2年目だし。覚えてくれてなかったら家に帰って泣く。
あーでも、めっちゃくちゃ嬉しい。恋する乙女は超単純なのである。
しかし嬉しかろうが悲しかろうが、私の感情はそんなに簡単に顔に出ない。ほぼ能面。それも土井先生にだけ。顔に出せたら可愛いというか、手っとり早いのに。
なんてことを能面顔で考えながら、口を開く。
「どこに座ればいいですか」
ここ、と土井先生は教卓の真ん前を指さした。
近いですねぇ。懐かしいですねぇ、この距離。
「1年の頃を思い出すな」
ほらほらほらほら、運命! と思いながらも曖昧に頷く。
「じゃあ、始めるか。ちゃんと勉強してきたか?」
「はい……あの、他の子は?」
土井先生が、何を言ってるんだ、というような顔をする。
「赤点取ったの苗字だけだぞ」
まさか。いつもの追試常連がいるはずだ。
「えっと……猪名寺くんと福富くんは?」
「奇跡的に赤点じゃなかった」
「バイト王は?」
「きり丸もギリギリ赤点を免れてる」
バイト王で通じるのか。
「だから、今回の赤点は苗字だけだ」
どうしよう。すごい馬鹿だと思われた可能性大。さすがに一人だとは思わなかった。3組の乱きりしん、は絶対いると思ったのに。黒木くんが勉強会でも開いたんだろうか。
呆然とする私の机に、土井先生が問題用紙と答案用紙を置いた。
ああ、でもこのテスト問題を私のためにだけに作ってくれたってことだよね。暗号でも仕込んであったりして。問題文の最初の文字だけを読んでいくと「名無しさんが好きだ」になってたり、記号を組み合わせると土井先生のメアドだったりしないのかな。
常識的に考えたら、ないけどね。
「じゃあ、始めて」
と言いながら、土井先生はノートパソコンを開いた。
はい、と小さく返事をしてシャープペンを持った。
とりあえず答案用紙に名前を書いて、問題を解き始める。内容は前回とほんのちょっと違うだけで簡単だ。これが追試というものか。楽勝、楽勝。
あれ、ここでまた赤点を取ればもう一回ふたりきりになれるのかな。でも成績下がっちゃうし、土井先生はがっかりしそう。補習と追試の度に安藤先生に嫌味言われてるらしいし。
満点狙おうか。ぶっちゃけこの前のテスト、わざと間違えなければ満点取れそうだったんだよね。
しかし、ふたりきりのチャンスも捨てがたい。
どうしようかと悩んでいると、教室に甲高い声が響いた。
「あれー? 土井先生、何してんの?」
教室の前のドアから覗いているのは、5組の賑やかな子だ。名前は忘れた。いつも「土井先生が好き」って言ってる、学年で8番目くらいにうるさい奴。1年の1学期に土井先生に告って振られたという噂は本当らしい。
それなのによく普通に話しかけられるなぁと、ある意味尊敬している。そんなに可愛くないのに。
ってか私、いつの間にか保健委員になったんだろうか。せっかくのふたりきりの時間なのに、しかもテスト受けてるのに邪魔すんな。
土井先生が立ち上がって、教壇の端まで行く。
「今、追試中だから……教室に用事がないなら入らないでもらえるか」
「はぁい」
甘ったるい返事。語尾にハートマーク。
「追試って、この前のテストのでしょ? あれ、すっごい簡単だったよね。赤点取った人いたんだぁ? 先生、大変だねぇ」
「こら」
「きゃー! 怒られちゃった」
うわあ。すごい。なんかすごいものを見てしまった。恋する肉食系女子高生怖い。
これは私はその他大勢に甘んじて、群で草でも食んでるのがお似合いだわ。
だって草食系だもの。名無しさん。
「ねぇ~土井先生」
5組の彼女は、教室の外からなら話しかけてもいい、という意味で先生の言葉を解釈したのだろうか。素晴らしい鈍感力。
羨ましくて呪いたい反面、何か真似できないかなーなんて観察してみたりして、テストどころじゃない。
「あのね、血液型と星座で相性が占えるのがあってぇ、それであたしと先生の相性どうだったと思う?」
やっぱり真似できないし、しなくていいのかもしれない。
怖いものを見てしまった。
5組のあなた、もうやめてー。土井先生が一瞬すっごい冷たい目をしてたから。いつも優しい土井先生が、珍しくイライラしてる気がするよ。頼むから空気読んでどっか行ってー。
なんかまた赤点取りそう。
「悪いが、追試中だから。それに、そういう話は友達としたほうが楽しいだろう? 私は興味がないから。じゃあ、気をつけて帰りなさい」
流れるようにさらっと言って、土井先生はドアを閉めた。
ご愁傷様。でもガッツは認めるし尊敬する。
てか土井先生怖い。
「ほら、気にしないで続けて」
「はい」
慌てて問題用紙に視線を戻す。
真面目に問題を解いて20分。見直しも終わり。やっぱり楽勝。
終わったと言えば採点してくれて、すぐ帰れるんだろうけど、もう少し一緒にいたい。どうしようかな。
ちらっと見ると、先生がすぐにノートパソコンから顔を上げた。
「終わったのか?」
「……はい」
「どれ」
差し出された手に答案用紙を渡す。
「何してたんですか?」
「授業のプリントの準備」
採点をしながら土井先生は言った。
先生の手元の答案用紙には、赤いペンが描く丸が増えていく。
満点かもしれない。と思うと同時に、なんだか申し訳なくなってきた。
「あの、すみませんでした」
「何が?」
「赤点取って……」
「さっきのなら気にしなくていいんだぞ?」
さっきのって何だ? と首を傾げながら暫く考えて、ようやく5組の子の件に思い当たる。あれは赤点を馬鹿にされたことよりも、土井先生への態度が衝撃だった。
土井先生の彼女への態度も、なかなかの衝撃だったけど。
衝撃は置いといて、気遣ってくれる先生ってば優しい。
帰り支度をしながら心の中でにやついていると、土井先生がぱっと顔を上げた。
「満点じゃないか」
と言って、先生は満面の笑みで答案を返してくれる。
「えへへ」
「苗字、いつも頑張ってるもんな」
「そ、そんなことないです」
「そんなことあるさ。苗字は授業態度もいいし、テストの点数だっていいだろう」
先生ってば褒めすぎ。頑張っててよかった。埋もれてると思ってたけど、意外に見てくれてるのかな。
「この間の点数が嘘みたいだな……で、どうだった。初めての追試の感想は?」
ちょっと低い声と、全部分かってるっていう目。
あれ?
「な、何で……」
「答案を見れば、苗字がわざと悪い点を取ったことくらい分かる」
怒っているわけじゃなさそうだけど、機嫌がいいわけでもなさそうだ。
これから怒られるのかもしれない、と思うと目が泳ぐ。
「どうしてわざわざ赤点なんか取ったんだ。何もいいことないだろう」
それが、そうでもないんです。
「クラスで何か問題があるわけじゃないよな?」
土井先生の声が心配そうなものに変わって、急いで首を横に振った。
生徒思いな先生に、余計な心配をかけるわけにはいかない。
「イジメとか罰ゲームじゃないです!」
「じゃあ、どうして……」
「土井先生と居残りしたくて!」
「えっ?」
何言ってるんだ私!
もうだめだ。色々終わった。さよなら初恋。
「か、帰ります! ごめんなさい! さようなら!」
握り潰した答案用紙を鞄に突っ込みながら、教室の後ろのドアを目指す。
何でか分かんないけど、土井先生が追いかけてくる。
追試ってこれで終わりじゃないの? 何かあるのかな。追試なんて初めてだから分かんないよ。
っていうか、もう、お願いだから、ほっといてぇぇえええええええええええ。
「苗字!」
さすがに名前を呼ばれたら、気づかない振りして帰るのは無理。だからって振り向けるわけでもない。
ドアの手前で足を止めた。
「なんでしょう?」
背中を向けたまま返事をすると、土井先生が近づいてくる気配を感じた。
もしかして、振り向かないと止まってくれないという「だるまさんがころんだ」状態なんだろうか。
「苗字、どういうことなんだ?」
先生の手が私の腕を掴んだ。
負けだ。
腕を引かれて、ゆっくりと振り向く。
でも、どうしても、どうしても、緊張に耐えきれなくなって、その時、右手が動いた。
私も、土井先生も、猪木もびっくりの平手打ち。ちなみに激励ではない。
土井先生は何が起きたか分かんないって顔。多分、私も同じ顔をしてる。
だって、わけわかんない。何で追いかけてきてその質問?
でも、じわじわと分かってくる。
ヤバい。まずい。先生を殴った。停学だ。親に怒られる。進路に響いて大学行けないかも。ってか土井先生に嫌われた。
あぁあああああ、どうしよう。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」
変な人形みたいに何度も頭を下げる。変な汗が流れて、膝は笑う。
「おっ、お、落ち着きなさい」
土井先生もね。と思わず言いたくなるような声がした。
土井先生は怒ってないみたいだけど、怖くて顔を上げられない。
あ、先生の靴、汚い。こういうとこがなんか可愛いんだよね。でも足臭かったらどうしよう。とりあえずこの靴は臭そうだ。
「苗字?」
足のことを考えてる場合じゃなかった。
恐る恐る顔を上げると、土井先生はほっとしたような表情をした。
土井先生の左の頬が赤い。先生の顔に私の手形がついてると思うと、ちょっと嬉しいかもしれない。目覚めなくていい方向に目覚めちゃうかもしれない。
「泣いてるのかと思った」
土井先生の優しい声に、我に返った。
頭を下げればいいってもんじゃないけど、またぺこぺこと頭を下げる。
「本当にごめんなさい! すみませんでした。卒業まで雑用でもなんでもしますから、停学だけは許してください。あと、できれば親も呼ばないでください。お願いします、何でもしますから」
言い終わってから思うのもなんだけど、保身に走ってるな私。でも終わるのは恋だけで十分だ。
土井先生は眉間に皺を寄せて私を見ている。
「……何でも?」
「……はい」
何を言われるのだろうかとドキドキする。
「じゃあ、質問に答えてくれないか」
なんだ、そんなことか。
「は、はい」
「どうしてわざと赤点を取ったんだ?」
それ、さっき言ったじゃないですか。
「つ、追試を受けたくて」
「その理由は……?」
「言えません」
「何でもするって言わなかったか?」
初めて聞く冷たいトーンにぞくぞくする。5組の子の時より凄い。とか考えてる場合じゃない。
「理由は、す、好き……だから、です」
先生は自分の顔を指さした。私はそれに頷く。
生徒からの告白なんて慣れてるんだろうな。卒業式に手紙貰いまくってるの見たし。バレンタインもすごかったし、文化祭とか遠足でも狙われてたし、修学旅行もやばそうだ。
チョコすら渡せなかったのに、ビンタしちゃったよ。
そして、きっとお決まりの定型文が返ってくるはず。気持ちは嬉しいけど、みたいな感じかな。定型文で返すなら、訊かないでほしいんですけど。
「苗字の気持ちは嬉しいけど」
はい、きたー。
「テストはちゃんと受けてもらわないと困る」
先生、今の問題はそこじゃないです。定型文ですらないし。これまでの会話の流れは何だったの。
ああ、はぐらかされた系? なるほど!
「苗字にはちゃんと卒業してもらわないと、私も困るんだ」
そりゃそうだ。私だってさすがに留年してまで先生と一緒にいたいとは思わないし。付き合えるなら別だけど。でも在学中に付き合うとやっぱり色々面倒だし、お互いに人生終わりかねないし、どうせなら卒業してからの方が大っぴらに付き合えるしお得だよね。ってことは、卒業してから土井先生の周りをうろつく方がよかったってことか。
下克上失敗、大打撃。
でもこの様子だと、留年も停学もなさそう。
なんて考えていると、土井先生が私の顔を覗き込んだ。
「苗字、意味分かってるか?」
「へ?」
「へ? って……」
教えたはずだ! とでも言うのかと思って先に答えてみる。
「教わってないです」
「そりゃそうだ……でも苗字なら、少し考えれば分かるだろう?」
土井先生ってば、何で急に恥ずかしそうな顔をするんだろう。
よく分からないまま、土井先生の言葉についてもう一度考えてみる。
私の妄想に任せると「卒業したら付き合おう!」ってことになるんだけど。まさかね。
あれ、でも、土井先生の顔が赤い。
「え……今のってもしかして……こ、告白の、返事なんですか?」
「いや、返事は……卒業してから」
今の発言もある意味返事じゃないですか。
しかし、卒業まで結構あるなぁ。
「卒業までに心変わりするかもしれませんよ」
「しない」
「私が、です」
ちょっとくらい、からかってもいいよね。どうせ卒業まで何もないんだし。
「そ、それは困る……さっき何でもするって言ったじゃないか」
焦ってる土井先生、超可愛い。もうちょっと意地悪しちゃおう。
「何させる気なんですか」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな!」
言いながら、土井先生は廊下をちらっと見た。安藤先生でもいたら大変だもんね。でも運のいいことに廊下は無人だ。
私、保健委員じゃなくてよかった。
「卒業まで、心変わりしないでくれ」
俯き加減にそう言うと、先生は顔を上げた。ばっちり目が合って、急に心拍数があがる。
「次は、私からちゃんと言うから」
ああ、ダメだ。また好きになっちゃった。何回、恋に落ちればいいんだろう。
頷きながら、少しだけ罪悪感を覚えた。
なんか、ごめんね。5組の子にも、土井先生のことを好きな他の子達にも謝りたい。抜け駆けしてごめん。呪ってごめん。
でもさ、やっぱり思うんだ。
土井先生と私は運命だったんだぁ! 結婚式に誰呼ぼう。そうだ、帰りにゼクシィ買おう。
「苗字?」
土井先生に呼ばれて、慌てて顔を上げる。危ない危ない、妄想は家に帰ってからにしよう。
「もう赤点取るなよ」
「はい」
能面顔、もとい真面目な顔で返事をすると、土井先生は優しく微笑んだ。
頬にしっかり手形ができちゃってるけど、職員室で何て言い訳するんだろう。