「すごい! 全部正解です!」
土井さんと私は、卒業アルバムを見ながらクラスメイトの名前を当てる、ということをやっていた。同窓会の準備だ。
土井さんがアルバムを見ていたのは10分程度なのに、次々と名前を当てていった。
すごい、すごい、と私が本気で感心すると、土井さんは照れくさそうに笑った。
自慢しないところがいいなぁ。彼本来の姿で、はにかむところを見てみたい。
実はひとりの時間に鏡の前で何度か微笑んでみたけれど、同じ笑顔には到底なりそうになかった。
「皆さん、この写真からは大分変わっているでしょうね」
溜息混じりに土井さんが言った。
不安なのかな? そんな風には見えないけれど。
そう考えてから、不安じゃなくて負担なんだと思い直す。
「別に全員と話さなきゃいけないわけじゃないから、適当で……私に話しかけてくる人はそんなにいないと思います、人気者じゃないんで……って自分で言うのも悲しいですね」
あはは、とわざとらしく笑ってみせると、土井さんは卒アルをじっと見ていた。
「そうかなぁ、けっこう話しかけられるんじゃないでしょうか……名無しさんさん、この頃より綺麗になってるから」
「な、何言ってるんですか」
動揺して勢いよくアルバムを閉じると、ぼさぼさの前髪が風で揺れた。
「あ……いや……すみません。この頃も十分、可愛らしいですよ」
何を勘違いしたのか、土井さんは高校時代の私まで褒めてくださる。
嘘ばっかり、と叫びたい。卒アルの私はどこからどう見ても垢抜けなくて、もっさもさの眉毛にださい髪型、笑顔はぎこちないのを通り越して半目の薄笑いだ。
「今も昔も、可愛くも何ともないですよ!」
乱暴に言いながらアルバムをケースにしまうと、テーブルに置いてベッドに飛び乗った。
あ、私が寝るのは布団だった。初日に散々譲り合った結果、土井さんにベッドを提供しているのだった。
そのことを枕に顔を埋めてから思い出した。
いつも使っているシャンプーの匂いが違っているような気がする。土井さんの体臭だろうか。体は私なのに。
のそり、と体を起こすと、土井さんはまたアルバムを見ていた。
勉強熱心だな。そう思った途端、土井さんが口を開いた。
「この方、特別な人ですか?」
「え?」
ドキッとした。
土井さんが指さした先にいたのは、私が好きだった人だからだ。
土井さんには何も言ってないし、写真に印をつけたわけでもない。それなのに、どうして分かるんだろう。
「その人は……好きだった人なんです。完全に私の片思いで……っていうか、他の学校に彼女がいたみたいです」
「そうなんですか」
「はい」
土井さんの声は淡々としていて、どこか残念そうにも聞こえた。
残念ながら、提供できるような面白い話はない。本当に何も起きなかった。遠足でも文化祭でも卒業式でも、ただのクラスメイトだっただけだから。
好きだった人が今はフリーだということを、数週間前に友達から聞いた。高校三年の時の私の友人たちは、私が彼を好きだったということを知っていて、彼自身もなんとなく気付いているみたいだった。だから、もしかしたら同窓会で何かあったりするかな、なんて思っていたけれど、今はそれどころじゃない。
土井さんには、少し話しておいた方がいいのかな。
「残念ですね、出席できなくて」
私の声帯からこんな声がでるのか、と驚くくらいに優しい声音で土井さんが言った。
「ご迷惑をおかけしてすみません。名無しさんさん、楽しみにしていらしたでしょう?」
期待はしていたけれど、楽しみにしていたのとは違う気がする。そう、私は下心があっただけで、再会を喜ぶわけじゃない。着ていく服を選んだ理由だって同じこと。憧れの人と近付く機会があるかもってだけ。
土井さんの優しさにつけ込んで、何をしているんだろう。
「名無しさんさん、寝る前にもう一度おさらいしましょう。名前の部分を隠してください」
土井さんに笑顔でそう言われて、胸が痛んだ。
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