私と土井さんは一睡もせずに夜明けを迎えた。
朝の光をタオルケットで遮ってうとうとしている私の耳に、土井さんが職場に電話をしているのが聞こえていた。
「ずる休みですね」
ベッドに戻った土井さんにそう言うと、誰のせいですか、と返ってきた。
次に私が目を覚ましたのは昼過ぎだった。
土井さんはもう起きていて、トランプを片付けていた。
私たちは夜通し神経衰弱をしていたのだった。
缶チューハイをちびちび飲みながら、3回勝ったら好きだと言おう、なんて思っていたのに結果は土井さんの圧勝で私が勝ったのは2回だけ。
「もう一回だけ」
「これで最後ですよ」
朝まで何度繰り返したことか。
洗面所で顔を洗って部屋に戻る。外はいい天気みたいだ。
「ジュース飲みたいから、コンビニに行きませんか」
最寄りのコンビニには欲しい雑誌がなかったので、別のコンビニまで足を延ばした。ビニール袋をぶら下げて長い階段に差し掛かると、海が見えた。
そういえば、土井さんとの出会いは海だったな。
「戻る方法はないのかな」
階段を下りながら独り言のように言うと、土井さんも小さく呟いた。
「せめて、身体だけでもどうにかしたいですね」
帰らなくてもいいんですか、とは訊けなくて下を向くと、水滴が階段に落ちてきた。
空が急に暗くなって、強い雨が降り出した。
出会った時みたいだ
階段をゆっくりと下りながら、私達はどちらからともなく手を繋いだ。
「雷が鳴ったら……戻れたりするかな」
私が期待と不安混じりにそう言っても、土井さんは黙っていた。
青白い光は一向に見えず、雨足が強くなるだけだった。
あと数段。私は急いで残りの階段を下りて、土井さんを見上げた。
「土井さん」
「はい」
土井さんは足を止めて私を見た。
「このままでもいいから……帰らないでください」
私がそう言うと、土井さんは悲しそうな顔をした。
私は階段を一段だけ上がって、彼に触れるか触れないかのキスをした。
唇が離れた瞬間、閉じた瞼越しにも分かる強い光が走った。そして、衝撃と言っていいほどの轟音。
痛いくらいに強い雨が、肌に打ちつけた。
目を開けた私の目の前には誰もいなかった。見上げていたはずの階段に、ひとり立っている。
ぼさぼさの髪をした男の人はいない。
走って戻ったアパートにも土井さんはいなくて、彼の忍装束もどこにもなかった。
一人きりの部屋から見る雨の景色は灰色で、夢の終わりを告げていた。
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