どうやったら惑わされずにいられるだろう。
朝礼の間中、そんなことを考えていた。雑渡さんと同じ空間にいると、彼の存在を気にしてしまう。そうしないではいられない。
恋愛対象として気になっているというより、警戒しているという方が正しいけれど、意識しているのに変わりはない。
そして、雑渡さんの気配を感じなくなれば、半助君のことを考えている。
これまでのこと、これからのことを、ただ漠然と。
午後になり、編集長は打ち合わせ。
編集部員もちらほらと取材で出ていくが、忙しいわけでもなくゆったりとした時間が流れている。
私はのろのろとサボりに近いペースで、催し物のページを作成している。
骨董市、ミニコンサート、フリーマーケットに講演会など。
普段なら、何か面白そうな催しがあれば、半助君やきりちゃんと足を運んでみようかと考えながら作業をするのだが、今日はそれもできない。
きりちゃんと出掛ける許可は暫く出ないだろうし、半助君とも次に会うのはいつなのか見当がつかない。
会ったところでどうなることやら。
そもそもよく考えてみると、一昨日の時点で既に半助君から「距離を置こう」と言われていたのだった。きりちゃんのことも、まともに謝れていない。
半助君も大変だったはずだ。普段から、胃の痛くなるような思いをしているのだから。
それなのにあんな電話を掛けて、さぞかし鬱陶しい女だと思われたはずだ。
ずっと前に交わした会話を、半助君は覚えているだろうか。
「私きっと、面倒くさい女だよ」
「名無しさんが手の掛かる人だってことは、最初の朝に分かっていたよ」
あれを覚えているならきっと、失敗したと思っているに違いない。
本当に、大失敗だ。
わざと大きな音を立てて、エンターキーを押した。
「苗字さん?」
驚いたような声に振り向くと、丸い目が私を見ていた。
「諸泉君……今来たの?」
「はい。どうかしたんですか?」
もこもこと着膨れした諸泉君に向かって首を振る。
「どうもしないよ。いい見出しが思いつかないなーと思って」
「そうなんですか。何か、お手伝いすることありますか?」
「今は特にないかな。ありがと」
諸泉君の笑みのぎこちなさに、気を遣われているのだと気付いて居たたまれなくなった。
誰も何も言わないけれど、私はそんなに酷い顔をしているのだろうか。
きっと、しているんだろうな。
苦笑しながら編集していたファイルを保存して、ぐるぐる巻きのマフラーを外している諸泉君に向き直る。
気を遣わせたままでは悪いので、元気な振りでもしておこう。
「そういえば、何でクリスマスイブなの? 飲み会」
「ただ単に、予定がない人で集まろうって話になったみたいですよ」
「それで、ほんとにやっちゃうんだ」
わざとらしく呆れたように、オーバーに表情を作って言うと、諸泉君は安心したように笑った。
「そうですよね。でも、結構参加する人多いみたいですよ」
誰が参加するのだろう。知りたいような、知りたくないような。
高坂君や五条君の周りは案外どろどろしているから、彼らが参加するかどうかで、かなり人数が左右されそうだ。平日だけど、なんといってもクリスマスイブなわけだし、恋人いませんアピールをするにはもってこいだ。
高坂君も五条君も、色恋沙汰には我関せずといった感じだけれど。
「なんなら飛び入りでも平気みたいですから、苗字さんよかったら来てくださいね」
彼氏さんも、と諸泉君は小さな声で付け足した。
「ありがと。あれ……でも諸泉君って」
まだ19じゃなかったっけ、と言おうとしたけれど口を噤んだ。よく考えたら諸泉君は、飲み会ではいつだって烏龍茶を飲んでいる。そして時々コーラかカルピスソーダ。
クリスマスだからといって、それは変わらないだろう。
それに実は飲み会と称したクリスマスパーティーで、山本さん一家も参加するかもしれないし。
私、それどころじゃないし。
首を傾げて私の言葉を待っている諸泉君に、無理矢理仕事をつくって押しつけた。
「えーっとね……これ、日付順に並べといてくれるかな」
「……はい」
諸泉君は若干嫌そうな顔をしながらも、素直に返事をした。営業部に雑用係として送り出した方がよかっただろうか。
そう考えたところでまた、雑渡さんの姿が思い浮かんだ。
それでも決して、好きなわけではないのに。