あまり料理は得意じゃないけど、今日の夕飯は頑張ってみた。和食がいいかなと思ったけど、本を見ていると下拵えがなかなか面倒で、比較的楽な洋食中心のメニューになった。最悪、蕎麦でも茹でればいい。
見知らぬ場所で初めて見るものに囲まれながら、私の代わりに仕事をしてくれている土井さんに、せめてものお返しがしたい。そしてこれをきっかけに、告白の返事ができたらなぁ、なんて思ってる。
デザートはケーキを何種類か買ってきた。奮発してちゃんとしたケーキ屋さんで。土井さん、洋菓子は好きみたいだったし、疲れたときには甘いものが美味しいもんね。
忙しい時期じゃないからほぼ定時で帰ってくると思ったのに、土井さんはなかなか帰ってこない。会社では特に問題はないと言っていたけど、残業までしなくてもいいのに。
ベッドに寝ころんで、テーブルに並べた料理を見る。温め直せるものばかりを作ったけど、すっかり冷めてしまった。がっかり。
しかし、遅い。まさか何かあったんじゃ。
青くなりかけた途端、鍵の開く音がした。
「ただいまぁ」
急いで玄関へ向かう。
「おかえりなさーい」
重い髪を揺らしながら顔を出すと、崩れていない完璧なメイクで土井さんは微笑んだ。
「いい匂いですね」
「ごはん、作ったんです。遅かったですね……あ、もしかして食べてきました?」
「いえ、仕事をしていたんです。お腹ぺこぺこですよ」
「じゃあ、すぐごはんにしましょう」
土井さんはテーブルの上の料理を見て足を止めた。
「……すごいですね」
「あんまり美味しくはないと思うんですけど……今、温めますね」
照れながら、皿を手に取る。
「とっても美味しそうですよ」
そう言った時の表情がすごく男っぽくて、自分の顔なのにどきどきした。
「おいしいです」
気をつかってくれているのか本心なのか、土井さんは洋食も和食も同じように食べてくれている。男の人だからたくさん食べるはずだと思ったけど、土井さんの倍近く食べているのは私だった。よく考えれば、入れ替わっているんだから当然だった。
食後のケーキを選ぶ。苺ショートにチーズケーキ、ガトーショコラにティラミス、フルーツタルト。ムース系も捨てがたいけど、予算の関係で断念した。
お腹がいっぱいなのもあって、お互いにほぼ無言でケーキを頬張る。私はチーズケーキ、土井さんは苺ショート。
デザートは別腹とはいえ、少し食べ過ぎた。
ふうっ、と息を吐きながら、土井さんが苺を口に入れるのを眺めていると、急に彼がこちらを向いた。
「食費が急にふたり分になって……大丈夫ですか?」
真顔で何を言うのかと思ったら家計の心配だった。でも、確かにお金は大事だもんね。
「大丈夫ですよーなんか土井さんって、妙にお金に細かいですね。あ、悪い意味じゃなくて、私もしっかりしなきゃなって」
土井さんはこれまでにもコンビニとスーパーの値段の違いや昼食代の節約方法など、なにかとお金の使い道を心配してくれていた。正直言うと、土井さんって所帯じみてるなと思っていた。
「うちには、うるさいのがいるもので」
「もしかして……恋人か奥さんですか?」
「ち、違いますよ。生徒です。身よりのない子で、長期休暇の間は一緒に生活してるんです」
「その子がお金にうるさいんですか?」
「どケチですよ」
そう言う土井さんの表情が疲れきっていて、私は思わず声を立てて笑った。
一緒に笑っていた土井さんが、不意にフォークを皿に置いて真面目な顔をした。
「……名無しさんさん」
「はい?」
「恋人がいたら、あなたに好きだなんて言いません」
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