買い物3

 このアーケードで一番大きな書店だ。地下一階に漫画やティーン向けの小説、地上の三フロアに雑誌や書籍。
 品揃えがいいので、私はちょくちょく利用している。

「きりちゃん、本屋さんに寄ってもいい?」
「いいっすよ」
「ありがと」

 書店に足を踏み入れると、思ったよりも混んでいた。
 参考書を選んでいる制服姿の学生や、絵本のコーナーでプレゼントを選んでいるような雰囲気の人たちが多く、雑誌の書棚は意外に空いている。

「雑誌を買うだけだから」
「名無しさんさんの作ってるやつですか?」
「違う違う、ファッション誌」

 ちらり、ときりちゃんは階段の方へ目をやった。

「ぼく、ちょっとだけ漫画見てきていいっすか?」
「分かった。会計終わったらそっちに行くね」

 私がそう言うのと同時に、きりちゃんは漫画が置いてある地下への階段を駆け降りていった。
 きりちゃんも漫画を見たいだろうし、少し他も見て回ろうかな。そう考えながらも雑誌コーナーへと足を運ぶ。

「名無しさんさん」

 目当ての雑誌を手に取った瞬間、肩を叩かれた。
 さぼりが見つかった。会社の人間か、と恐る恐る振り返ると、目に入ってきたのはこの書店で度々遭遇する顔だった。

「あ、不破君……?」

 にやっと笑うので、外れだと分かる。

「じゃなくて、鉢屋君だ。当たり?」

 そう訊いてみても、鉢屋君はくすくすと笑うだけだ。

「名無しさんさん、今日は休みですか?」
「ちょっとだけさぼって買い物。鉢屋君は?」
「雷蔵の買い物に、ついてきただけです」

 だよね。と、心の中で呟く。
 鉢屋君と不破君を別々に見かけることは殆どない。外見も、まるで双子みたいだ。他人なのによくここまで似せられるなぁ、と毎回感心する。制服のせいだろうか。
 鉢屋君と不破君は外見こそ似ているが、口を開くと喋る内容は全く違う。

「買い物って、クリスマスプレゼントですか?」
「えっ……ううん、違うよ」

 窺う様な眼差しで見られて、思わず緊張してしまう。雑誌を持つ手に汗をかいてしまい、こっそりとコートで拭った。

「名無しさんさん、土井先生と付き合ってるんですよね?」
「な、何で知ってるの?」

 きりちゃん以外の生徒の前では、私と半助君は一応”友達”ということになっている。半助君のクラスの生徒ならまだしも、中等部の鉢屋君が知っているのは何故だろう。
 焦る私を見てか、鉢屋君は生意気な表情で笑った。

「かまをかけただけですよ」
「鉢屋君!」
「まぁ、土井先生と名無しさんさんの関係、分からない方がどうかしてると思いますけどね。文化祭だって来てたでしょう?」
「……はい。そうだね……」
「もしかして、ばれてないと思ってたんですか? 中等部には知れ渡っていますよ」

 全くばれていないつもりだったのが恥ずかしい。でも半助君のクラスの子供たちに、ばれなければいいのかな。
 本格的に変な汗をかいてきた。
 溜め息を吐くと、鉢屋君が、ふっ、と笑う。

「それじゃあ、また。雷蔵が悩んでいる頃だろうから」
「う、うん……またね」

 私の返事を待たずに、鉢屋君は書店の奥へと姿を消した。
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