私は、ふわふわの靴下を手に取った。
「きりちゃん、見て。この靴下、耳ついてるよ」
「ほんとだ! 暖かいんすかね?」
「分厚いし、暖かいと思うよ。でも男の子へのプレゼントにしては可愛すぎるよね?」
うーん、ときりちゃんは悩む。
私ときりちゃんは30分近く、雑貨屋の中をうろうろしている。
500円のプレゼントはなかなか難しい。
自分が子供の頃を思い出してみると、消しゴムや小物入れ、カップやタオルなど、どれも可愛いければそれなりに何でもよかった気もする。けれどもそれは女の子の話で、男の子のことは分からない。
実際、「これはどう?」と私が言うと、きりちゃんは渋い顔ばかりしている。
「他のお店に行ってみる? 駅ビルに車を停めたから、そっち行ってみようか」
「ここで買っちゃいます。名無しさんさん、仕事あるんですし。すぐ決めます」
さっき時計を盗み見たのが、きりちゃんにばれていたようだ。
きりちゃんが、厳しい目つきで棚の雑貨を見ながら歩いていくのを追う。
「急いで決めなくてもいいよ。また別の日に買い物に来てもいいんだし」
「でも名無しさんさん、もうすぐ忙しくなるって言ってたじゃないすか」
「うん……それはそうなんだけど」
残業は続くけれど、全く休みがないわけではない。
きりちゃんと会うのは癒しでもあるので、休日が潰れるのは構わない。でも、きりちゃんにはきりちゃんの友達との予定があるか。
何度も通った通路の端で、きりちゃんが足を止めた。
「これにします!」
彼が手に取ったのは、貯金箱だ。
「どっちがいいっすかね?」
金の豚とクリーム色の羊を見比べる。
「来年の干支は羊だから、羊がいいんじゃない?」
「なるほど!」
きりちゃんは金の豚をいそいそと棚に戻し、値段を指さしながら確認している。
「ぴったり500円かぁ」
ようやくプレゼントが決まったことに対しては嬉しそうだけれども、出費に関してはとてつもなく悲しそうだ。
切ない溜息を聞きながら、私は小銭入れの口を開いて硬貨をひとつつまみ出した。
「きーりちゃん」
羊の貯金箱を両手で抱えるようにしながら顔を上げたきりちゃんに、500円玉を差し出す。
「はい」
「えっ……でも……」
と言いながらも、きりちゃんの顔はにやけていて、右手は前に出ている。
その小さな手のひらに、500円玉を置いた。
「……えーっと……あの」
「いいから。私、最初からプレゼント代を出すつもりで買い物に誘ったんだよ」
「でも」
「昨日、家で待たせちゃったから、そのお詫び。ね?」
「……はい」
「細かいのは、きりちゃんが出してね。ほら会計してきて。私、仕事に行かなくちゃ」
「はい!」
勢いよく返事をして、きりちゃんは会計カウンターに飛んでいった。
お節介だったかな。でも、これくらいはいいよね。と、少し不安になりながら、入浴剤の詰め合わせを眺めた。
半助君へのプレゼントは、この程度でいいかな。
ブルーでまとめられた入浴剤のセットを手に取ってみたけれど、半助君は使わない気がする。私の部屋に泊まりに来たときに使ってもいいけれど、それだとプレゼントしたことになるのだろうか。
金額は千円しないくらい。恋人へのプレゼントにはどうかと思うが、半助君はそこまで気にしないようにも思える。
第一、あまり高価なものだと重いだろう。プレゼント自体、重く受け止められるだろうか。いや、付き合っているのだから、おかしくはないはずだ。
入浴剤を棚に戻しながら、ふと考えた。3年前、あの男は私のプレゼントをどう思ったのだろう。独り相撲をとる馬鹿な女だと思っただろうか。それとも、そう思うほどの興味もなかったのだろうか。あの男にとっては、私からのプレゼントなど、街頭で配られているティッシュみたいなものだったのかもしれない。
惨めだな。
私のような惨めな女と付き合っていて、半助君は満足しているのかな。本当はそろそろ別れたいと思っているんじゃないかな。
だから、クリスマスに会ってくれないのかもしれない。
「クリスマスプレゼントにオススメ!」と書かれたポップが目に留まって、私は目を閉じた。そうすると今度は、店内に陽気なクリスマスソングが流れていることに気がついて、泣きそうになった。
クリスマスは嫌い。プレゼントも嫌い。惨めで情けない自分も嫌い。大嫌い。
3年前にあんなことがなければ、こんな思いをしなかった。あの男と付き合わなければ、好きになってしまわなければ、こんな思いをしなくてすむのに。
あのクリスマスイブにも同じ賛美歌を聞いた。
全然、嬉しくも楽しくもない。陽気な気分になんてなれない。
耳を塞ぎたくなった私の、コートの袖が強く引っ張られた。
はっと我に返る。
「名無しさんさん?」
きりちゃんが、私を見上げていた。
「大丈夫ですか? 具合、悪いんすか?」
きりちゃんは心配そうな表情で、私の手を握る。温かい手がどろどろした気持ちを追いやってくれて、私は華やかで可愛らしい雑貨屋の通路に戻ることができた。
「ちょっと仕事のこと考えて、嫌になっちゃっただけ」
「そうなんすか?」
「うん……ってかきりちゃん、手は繋がないんじゃなかったの?」
「えっ? ああっ!」
頬を赤く染めながら、きりちゃんは繋いでいた手を離した。
「名無しさんさんが、呼んでもなかなか気付いてくれないからですよっ!」
ごめんね、と軽く返事をしながら、私は入浴剤のセットを手に取った。
「買うんすか?」
「うん」
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