所々街灯に照らされた夜道には、人の気配はなく、時折車が通るだけ。吐いた息が白く昇っていくのを目で追うと、澄んだ星空が見えた。
瞬く星に癒されるわけでもなく、苛つきながら歩いていると、横断歩道で足止めを食らって私のイライラは増した。
こんな時間には車なんて殆ど通らない。けれども信号を無視するのはどうかと思うので、仕方なく信号が変わるのを待つ。
「何してるんだ?」
どこかから、何か聞こえた。
けれどもそれを完全に他人事だと思いながら、暇潰しに携帯を開く。メールも電話もない。
半助君は部屋で何をしているんだろう。怒って帰っちゃったかな。
「おい、無視か? おーい!」
まさか、話しかけられているのは私だろうか。
こんな時間に声を掛けてくるなんて、きっと危ない人だ。目を合わせたら、まずいかもしれない。アパートとコンビニはどちらが近いだろうか。ああ、でも、相手は向こう側にいるのだから、アパートに戻るのが安全かも。
恐る恐る携帯から視線を動かすと、横断歩道の向こう側に声の主が立っている。
スウェットはともかく、この寒いのにサンダル履きだ。
「おーい、名無しさん」
「は?」
名前を呼ばれて顔を上げると、大木さんがおでんを食べていた。
こんな遅くに、脅かさないでほしい。
信号が青になったので、脱力しながら横断歩道を渡る。大木さんは立ち止まったままだ。
「こんな時間に、どこに行くんだ?」
それはこっちの台詞だ、と思いながら、横断歩道を渡りきったところで足を止めた。
「コンビニです」
「奇遇だな、わしも行ってきたところだ」
そうでしょうとも。
おでんは温かそうな湯気を立ち上らせている。
大木さんは本当にこの近くに住んでいるんだなぁ。これからは、別のコンビニに行くことにしようかな。と、何ともいえない気分で考えていると、大木さんは私の顔を覗き込む。
「暗いし、一緒に行ってやろうか?」
「結構です。またおでん買うんですか」
「危ないから、ボディーガードになってやると言ってるんだ」
にっと笑った大木さんを避けるように、私は再び歩きだした。
「いらないです。一人で平気ですから」
「なんだ? 怒っているのか?」
「怒ってませんっ」
あなたには、と心の中で付け足しながら歩調を早める。諦めて退散してくれることを祈ったけれど、大木さんはついてくる。
「ついてこないでください」
「夜道は危ないぞ」
「ほっといてください」
「放っておけないから、こうして声を掛けてるんだろう」
「頼んでません!」
と、振り向きざまに強い口調で言って、大木さんを睨んだ。
面食らった様子の大木さんに背を向けると、「つれない女だ」と、呆れたような声が聞こえてきた。それを無視して、私はコンビニの明かりを目指した。
心配してくれたのに悪いことをしたとは思う。でも本当に、心の底から放っておいてほしいと思っているのだから仕方がない。
私が待っているのは半助君なのだ。