喧嘩3

 中華まんとコーヒーを2つずつ買った。
 これを渡しながら半助君に謝ろう。そう決心してコンビニを出ると、街路樹の脇に半助君が立っていた。
 私に気付くと、彼は静かに笑う。

「迎えに来た」

 ありがとう。嬉しい。さっきはごめんね。私の口から出たのは、どの言葉でもなかった。

「……鍵は?」
「ちゃんと閉めてきたよ」

 半助君は鍵を取り出して見せると、私のコートのポケットに入れた。

「ほら、寒いから早く帰ろう」
「うん」

 私は、なんて可愛げがないんだろう。自己嫌悪しながら、半助君の隣を歩く。
 人気のない夜道には、私たちの足音がやたらと大きく響く。

「名無しさん……袋、持とうか?」

 私は首を横に振りながら、袋の中に手を入れて中華まんをひとつ取り出した。
 ふわり、と白い湯気が上る。

「はい。半助君の分」

 目を逸らしたまま突き出すと、半助君が小さく笑う気配がした。

「ありがとう」

 少し呆れたようでいて、とても優しい声だった。
 この人に、どう謝ればいいのだろう。そう考えながら、中華まんを頬張る。お腹が満たされてくると、心が僅かに温まった。それなのに謝罪の言葉はうまく出てこない。

「……美味しいね」
「ああ。他に何を買ったんだ?」
「コーヒー」

 夜中なのに、と笑って言った半助君の横顔は凛としていて、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
 半助君のことが大好きなのに、時々大嫌いになる。信じたいのに、信じられなくて、それなのに彼を信じてる。だから怖い。怖いのに好きで、好きだから怖くて、全部、投げ捨てたくなる。

「名無しさん」
 半助君の柔らかな声が、そっと響いた。
「渡ってしまおう」

 半助君は私の手を取った。
 信号が点滅する横断歩道を、走って渡る。車なんて来ないのに。
 半助君と付き合っていなければ、私は深夜の歩行者用信号なんて無視するかもしれない。数歩前を行く背中を見て、そう思った。
 私はやっぱり、半助君が好きだ。

「半助君」
「ん?」

 僅かに息の切れている私と違い、半助君は平然としている。

「さっきは、ごめんね」
「いや……私も悪かった」

 それは絶対に違う。半助君は何も悪くなかった。
 私の欲しい言葉をくれないこと以外は。
 でも、今日はもうその話はしたくないし、永遠にしないかもしれない。私が望んでいるものに彼が気付いてくれるのを待つのは、間違いだろうか。
 私はまた、独り相撲をとっているのだろうか。

「寒い……早く帰ろ」

 泣きそうになったのを隠したくて、私は半助君の腕にしがみついた。

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