中華まんとコーヒーを2つずつ買った。
これを渡しながら半助君に謝ろう。そう決心してコンビニを出ると、街路樹の脇に半助君が立っていた。
私に気付くと、彼は静かに笑う。
「迎えに来た」
ありがとう。嬉しい。さっきはごめんね。私の口から出たのは、どの言葉でもなかった。
「……鍵は?」
「ちゃんと閉めてきたよ」
半助君は鍵を取り出して見せると、私のコートのポケットに入れた。
「ほら、寒いから早く帰ろう」
「うん」
私は、なんて可愛げがないんだろう。自己嫌悪しながら、半助君の隣を歩く。
人気のない夜道には、私たちの足音がやたらと大きく響く。
「名無しさん……袋、持とうか?」
私は首を横に振りながら、袋の中に手を入れて中華まんをひとつ取り出した。
ふわり、と白い湯気が上る。
「はい。半助君の分」
目を逸らしたまま突き出すと、半助君が小さく笑う気配がした。
「ありがとう」
少し呆れたようでいて、とても優しい声だった。
この人に、どう謝ればいいのだろう。そう考えながら、中華まんを頬張る。お腹が満たされてくると、心が僅かに温まった。それなのに謝罪の言葉はうまく出てこない。
「……美味しいね」
「ああ。他に何を買ったんだ?」
「コーヒー」
夜中なのに、と笑って言った半助君の横顔は凛としていて、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
半助君のことが大好きなのに、時々大嫌いになる。信じたいのに、信じられなくて、それなのに彼を信じてる。だから怖い。怖いのに好きで、好きだから怖くて、全部、投げ捨てたくなる。
「名無しさん」
半助君の柔らかな声が、そっと響いた。
「渡ってしまおう」
半助君は私の手を取った。
信号が点滅する横断歩道を、走って渡る。車なんて来ないのに。
半助君と付き合っていなければ、私は深夜の歩行者用信号なんて無視するかもしれない。数歩前を行く背中を見て、そう思った。
私はやっぱり、半助君が好きだ。
「半助君」
「ん?」
僅かに息の切れている私と違い、半助君は平然としている。
「さっきは、ごめんね」
「いや……私も悪かった」
それは絶対に違う。半助君は何も悪くなかった。
私の欲しい言葉をくれないこと以外は。
でも、今日はもうその話はしたくないし、永遠にしないかもしれない。私が望んでいるものに彼が気付いてくれるのを待つのは、間違いだろうか。
私はまた、独り相撲をとっているのだろうか。
「寒い……早く帰ろ」
泣きそうになったのを隠したくて、私は半助君の腕にしがみついた。